こんにちは、安田です。今回のオーストラリアツアーでご一緒したKamaSさんの観望記を転載します。
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9/16-24のオーストラリアでの至福の星見をしてきた観想です。旅行の詳細は安田さんのブログをご参照いただき、当方は思いついたことを徒然なるままに書いてみました。
1. オーストラリアの空
今回でオーストラリアは5回目ですが、純然たる星見旅行は昨年に続き2度目です。この2度はシドニーの北西450kmにあるクーナバラブランというとても小さな町ですが、Siding Spring天文台のある町として有名場所を訪れました。9月はデータによるとNSW州の降水量が年間でも最小の時期に当たり、夜の気温もそれほど低くなく(最低でも5℃ぐらいで、今回は10-15℃)、観望には絶好の季節です。事前の予想どおり、7晩のうち6晩は快晴、1晩は少し雲に邪魔されたおおむね晴れといった最高のコンディションでした。
安田さん持参のSkyQualityMeter(SQM)によれば1秒角あたり21.3-21.9等星のバックグラウンド光ということで、日本の最良の条件に比べても1-2等ほど暗いと思われます。また、このSQMなのですが、明らかに透明度が高いときのほうが、小さな値を出すことから一概に大きな値を出すことがいい空とはいえないかもしれません。何しろこんなこともわかってしまう絶句の空でした。
シーイングの方はさすがにすべての晩において40cmのディフラクションリングが見えることはないのですが、2晩は確認でき、その内で帰る日であまり時間のなかった23日の晩がベストシーイングでした。この日に見た重星の見え方は後で言及します。ちなみに昨年は晴れた夜(3晩)のうち、2晩もディフラクションリングが見えました。
クーナバラブランでの快晴率は年間を通して60%とのことです。私が訪れたことのあるオーストラリア星見ポイントは、他にはブリスベン郊外、アリススプリング-エアーズロック、ケアンズ内陸部ですが、クーナバラブランの空は、ケアンズ郊外(ケアンズから内陸へ150km)と同等で、ブリスベン郊外よりはよく、アリススプリング-エアーズロックよりはやや落ちるといった印象を持っています。この落ちる部分は地平付近の透明度で、エアーズロックで見た地平線間際まで星がびっちり見えるあの感覚はクーナバラブランでは味わえませんでした。ただ、エアーズロックへ行ったのは20年近く前ですので、記憶がかなり美化されている可能性がありまして、近年の状況は変わっているかもしれません。アリススプリング周辺の快晴率は80%を越えていますので、Ninja400を国内線航空機に持ち込むことが問題なければまたいつかはいってみたいと考えています。
2. 重星の話
今回の星見目的は無論、DeepSkyObject(DSO)ですが、最後の日に見た最良のシーイング下の重星が目に焼きついていますので、こちらから始めます。この日のシーイングは40cmでなんとディフラクションリングがくっきりと見えている状態です。ただ時折リングは乱れますので、8-9/10といったところでしょうか。 ちなみに日本ではいつもピンポンだまのような星像で、一度も本機でディフラクションリングは見たことはなく、40cmでの重星観測はあきらめております。この星像に気を良くしまして、重星を見てやろうと少し西に傾いた、頭から逆立ちしているさそり座に望遠鏡を向けました。
まずアンタレスですが、なんと驚くことにディフラクションリングの外にくっきりと緑の伴星が見えるではないですか。日本でこれを見るために10cmAPO屈折を調達したのですが、あの貧弱な見え方に比べようもなく、普通に伴星が見えているのにただただ驚愕しました。伴星はリングの外に静かにちっとくすんだ緑色に輝いており、主星の赤との対比が見事な景観をなしています。このようにいつも見えるならば美星2重星ベスト3には入ると思われます。
次にScoνです。この重星はダブルダブルの2重星(4重星AB+CD)で、CDの方はともに黄色っぽい星が200倍程度で簡単に見えます(離角2.3秒)。もう一方ABは0.9秒離角で400倍ではっきり両星の中心に区切りが見られました。
さて次が本題のScoξです。この星はAB+Cの3重星です。ABとC間7.6秒はむろん分離しており、主星ABはきれいなオレンジ色に見えます。さすがにABは400倍でもシンチレーションが安定になる一瞬だけ見えるような気がする程度です。そこで倍率を750倍に上げてみると(日本でこの倍率にしたことはなく、星もピントの山が出ないと思われます)シンチレーションが安定したとき(一瞬ではなくある程度の時間)、はっきりと分離されました。驚くべきはAustraliaの空の良さでした。空の暗さが絶大なことは実感していましたが、シーイングまでこうも違うとは日本の空が恨めしくなった一瞬でした。ABの離隔は日本に帰り、少し文献をあさったところ、AJ 117,1023-1036(1999)に過去の観測値(70cmによるものが多い)から、離角をもとめていますが、2006年で0.701秒のようです。
ちなみにトラペジウムは常に6つは見えたのですが、8つは位置を確認していないせいもあり、ぱっと目には見えておりません。また、M57の中心星は常に見えているわけではないのですが、確かに確認できました。
3. Deep Sky Objects
こいつに関しては間違いなく、1年分見だめをしました。ともかく人間自動導入機(安田さんのことです。とにかく氏の導入技術にはいつもながら、度肝を抜かれております。今回もNinjaの導入は氏に任せっぱなしで、当方は横であれこれ騒いでおりました。安田さんには本当にお疲れ様でした。ここで改めて感謝させていただきます。ありがとうございました。)が次から次へと獲物をGetしてくれますので、私はただ、口(目?)をあけ、生のみ状態でした。その中(おそらく、7夜でトータル1000天体以上は導入しているものと思われます)から、トピックスをいくつか御紹介します。
1) NGC4650A
9月の空で残念なのはケンタウルス座あたりが夕刻には低空になっており、この付近のすばらしいDSOが見難い点です。このHubble画像で有名な極リング星雲はぜひ見てみたかった対象でした。夕刻の高度20度ぐらいに会ったこの天体は無論Hubbleの画像のごとくは見えませんでしたが、とても淡いのですが棒状の広がりと中央集光は認められました。
実は今回の敵は高度だけではなく、なんと黄道光でした。この時期、黄道光は夕方西の空にほぼ垂直にのぼって、天頂で銀河と直角に交わっています。その黄道光がケンタウルスのν-ζ―ε-γ-(もうひとつの4等星)で作る5角形の端にかかって、観望の邪魔をしています。黄道光が邪魔なんてなんと贅沢な空なのですが、現実です。NGC4650AはMegaStarでは13.9等星となっていますが、以上の悪条件もあり、それよりずっと暗くまた淡く感じられました。以前日本(伊豆高原)でトライしましたが、あきらめた記憶があります。1億3千万光年先の銀河の衝突の息吹を感じた一瞬でした。
参考URL http://hubblesite.org/newscenter/newsdesk/archive/releases/1999/16/
2) ESO 269-57
この銀河はオメガ星雲のすぐ近くにある、見方によっては車輪状に見える星雲です。光度12.5等からその見え方を期待したのですが、1)と同様で光度が低いためもあり、全体的に淡く中央集光が認められる程度でした。
http://antwrp.gsfc.nasa.gov/apod/ap000127.html
3) NGC1427A
ろ座銀河団の中の変形した銀河です。周囲の銀河との相互作用により、このような形になったとあります。別名動く銀河とも呼ばれており、近くに見える巨大銀河NGC1399の方向に秒速600kmの猛スピードで進んでいるそうです。Hubble画像は小マゼラン雲によく似ています。40cmでの見え方は13.4等としては淡く見えにくいものですが、不規則な銀河であることははっきりわかりました。
http://hubblesite.org/newscenter/newsdesk/archive/releases/2005/09/
4) NGC247
ちょうこくしつ座の有名な銀河NGC253の北5度にあるくじら座にある9.1等の銀河です。デネブカイトスのすぐ南なので、導入は簡単ですが、NGC253,55,288に比べ、ぱっとしない銀河です。実は問題はこの銀河自体でなくそのそば(北やや東より30分のところ)にある4つ連なった銀河の列です。別にHickson#というわけではないのですが、MegaStarで気になる配列だったので見てみました。北からESO 540-23,24,25で23と24の間に17等の名無し銀河があります。23と、25が14-5等級クラス、24が15.7等、名無しは17等です。見え方は23と、25はそらし目で一発、24は私はぎりぎり、名無しは私不可、安田さん見えているという結果でした。なんにしても恐るべきはオーストラリアの空でした。チャンチャンーーー。
その他大小マゼラン雲内のDSOは安田さんの奮闘で150近くの天体を見ましたし、北半球のメジャーどころの見え味も、辟易するほど堪能した7夜でした。まだ、書くことは山のようにあるのですが、いまだデータの整理がつかず、次回のお楽しみといたします。
4. Video Astronomy
今回も昨年に続いて、TGV-Mを持ち込みました。昨年は3夜しか晴れず、Ninja400の星像に酔いしれ、ほとんど活躍の場がなく、固定撮影で銀河を撮影したぐらいでした。今回はずうずうしくも同行の三原さん(ほんとに貴重な時間と機材をお割き頂き、ありがとうございました。)に機材(P2赤道儀にキャノンEF70-200F2.8、セレストロンC5)をお借りして、撮影できました。まだ、画像処理が済んでいないのでUPできませんが、8秒で写る星雲星団はこれも絶句ものでした。日本ですとバックのかぶりがひどく、F2.8では8秒の露出は感度を上げてとることは困難ですが、そこはオーストラリアの空(何度もこの言葉でこの記事をお読みの方は辟易されているかもしれませんが、平に御容赦ください)、目いっぱいGAINを上げても問題なしです。むしろ明るい星雲(NGC253の中心部)などは星雲自身が白飛びしています。準備不足であまり撮影枚数は、少ないのですが、UPすれば驚くこと請け合いです。御期待ください。
Ninja400によるオーストラリアのDSOはすごすぎます。間違いなく中毒症状を起こしますので、正常な方は近づかない方が無難です。もちろん御一緒に次回ダイブされる方は大歓迎ですが、社会復帰については保証の限りではありません。
一週間たってもまぶたにあの銀河が浮かぶKamaSでした。
KamaSさん、安田さん、三原さん、 クーナ遠征、大成功のようで、おめでとうございます。 私も1年たってもまぶたにあの銀河が浮かんでいます。 ところで、SQMですが、曇ったときの等級と暗室での等級は計測されましたでしょうか? 私がクーナで経験した最も暗い暗闇は曇った屋外でした。
投稿情報: トラ | 2006-10-08 19:03
こんばんは、トラさん。
SQMで計測してないのです。暗闇でちょっとやって見ます。MAX値を知りたいので。今回は銀河群を沢山見ました。16等の銀河が見れると嬉しくなります。
来年もまた行きたいところですね。
投稿情報: 安田 俊一 | 2006-10-10 01:03
KamaSさん、こちらでは初めまして。先日は書き込みありがとうございました。
ξScoですが、某誌でLX200R-20で分離したのに触発されて来年は再度トライしてみます。調べてみると広島市でも案外南中高度が高い(といても家の屋根から出る程度ですが)です。2003年に見た時に気流が悪かったせいか主星が分離できませんでした。
それにしても、うらやましいオーストラリアの夜空ですね。DSO広島では山中でもオーストラリアには遠く及びません。
投稿情報: 中井 健二 | 2006-10-11 01:42